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地球生命圏研究機構

SELIS セミナー

日時

2013年10月4日(金) 16:30~18:00

場所

環境総合館2階、第2会議室   

講演者

           佐藤 永 (名古屋大学・環境学研究科 特任准教授)

講演内容

「 気候変動に伴った東シベリアの植生・凍土システム変化:シミュレーションによる検討

東シベリアには主にカラマツから構成される落葉性針葉樹林帯が拡がる。これは、世界最大の針葉樹林帯であり、その変化が炭素収支に与える影響は大きい。またこの地域は、冬の長い期間積雪に覆われるため、植被の変化は露出する雪面の比率を変え、地表面の日射反射率(アルベド)を大きく変化させる事で、気候へ強いフィードバックを与える。例えば、今後の温暖化に伴って、主要構成樹種が落葉性のカラマツから常緑性のアカマツに入れ替わる可能性も指摘されており、この場合、アルベドが下がることで温暖化を加速させるとも指摘されている。よって、東シベリアの植生変動は、全球規模の気候システムに大きな影 響を与えるものであり、これを的確に予測することの重要性は高い。
そこで講演者は、今後数十年~数百年の間に予測される気候環境変動の元で、東シベリア域における植生や凍土動態 を予測するモデルを構築した。このモデルは、成熟林における炭素、水、エネルギーの季節変化や年々変動を良く再現した。また、この地域の植生は、おおよそ 200年周期で大規模な山火事が生じ、それにより森林が一斉更新するという特徴を持つが、このモデルは、山火事後の植物生産力やバイオマスの回復過程も的 確に再現した。このように、モデルが一定の信頼性を持つことが確認できたため、このモデルに21世紀中に予測されている大気中CO2濃度変化と気候変動の 予測を入力し、これら環境変動に伴った植生変化を出力させた。その結果、今後さらなる進行が予測される温暖化は、地表面付近の永久凍土層を融解させることで、カラマツ林帯を崩壊させる可能性が高い事が示された。
しかし、このような温暖化に伴ったカラマツ林帯の崩壊は、地表面に堆積した有機物層の「メモリー効果」によっ て、百年のオーダーで遅延する可能性も示された。カラマツ林のような亜寒帯林には、一般に、その林床に枯死物や地衣類から構成される厚い有機物層が存在す る。この有機物層は、大気と地面との熱交換を妨げることで凍土の融解を阻害するが、この融解した凍土層が亜寒帯域の植物に水を供給しているために、凍土融 解深度は植物生産性を強く制御している。我々は、森林火災後の林床有機物層の蓄積と、それが熱水収支や植物生産力に与える影響を初めて植生モデルに組み込み、それが温暖化に伴った植生変化の予測に大きな影響を与えることを示した。